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巡礼地ルルドの洪水に見る、防水対策のヒント

このたびの西日本豪雨(平成30年7月豪雨)による生々しい被害状況を報道各社のネット配信サービスで見ていた時、少し前に目にしたある動画を思い出しました。

 

フランス南西部、ピレネー山脈のふもとにある、カトリックの巡礼地であり奇跡の水でも有名なルルド(Lourdes)で、今年(2018年)6月13日に起きた洪水のもようを伝える、公式サイトの動画です。

 

1858年に村娘ベルナデット・スピルーが聖母マリアと対面し、湧水の源ともなった通称グロット(La Grotte)と呼ばれるマッサビエルの洞窟は、ガブ・ド・ポー(Gave de Pau)川の目の前に位置します。

 

そのため一帯が大雨に見舞われると川の増水や氾濫の影響を受けやすく、洞窟を中心とした聖域の大部分が水没することもあります。近年では2012年10月2013年6月に大規模な洪水が発生。

 

沐浴場や地下大聖堂など聖域内の主な施設は濁流であふれ、洞窟前の大きな橋も流されて、周辺は閉鎖する事態に。聖域の外でも巡礼者を迎えるホテルや住宅が冠水し、人的被害もかなり大きかったと聞いています。

 

こちらは2013年6月の大氾濫の様子を伝えるルルド公式サイトの動画です:


Inondation 2013 Grotte de Lourdes (vidéo 20) : se souvenir du 18 juin 2013

 

 

二度の大氾濫で激しく損なわれた施設の復旧と今後の洪水対策の増強、さらには洞窟周辺のバリアフリー化の徹底や給水施設の改善などを目指して、2014年11月には「le Projet Grotte Coeur de Lourdes(ル・プロジェ・グロット・クール・ド・ルルド)」と呼ばれる、大改修プロジェクトが発足。

 

流されてしまった洞窟前の橋の代わりとして、橋桁の高さを最大で4メートル持ち上げられるようにした可動型の橋を採用し、将来のポー川の増水時に備えるなど、ユニークな対策も図られました。

 

その後しばらくの間は大きな水害はなかったようでしたが、先月6月13日には再びポー川が増水し、氾濫の危険性が出てきました。以下の動画ではその時の聖域内でのスタッフの活動を紹介していますが、前2回の大氾濫の際には見られなかった、新たな防水策が用いられているのに気づきました。

 


Inondations 2018, sanctuaire de Lourdes : mercredi 13 juin, 3h du matin

 

川の氾濫に備え、洞窟前の可動橋の橋桁はすでに持ち上げられています。しかし、当然のことながらそれだけでは周辺施設の浸水や冠水は防げません。

 

そこでルルドのスタッフは、石造りの施設の出入り口には、日本でも近年よく見られるようになったパネル式の組み立て式防水壁を設置。

 

更に、洞窟の前には、巨大な赤いウインナーを思わせるゴム製の防水堰を何本も運んできて積み上げ、ベルトで縛って入り口を塞ぎました。

 

この防水パネルや丸太状の防水堰といった道具は、どうやら昨年2017年の秋ごろに新たに採用されたばかりのもののようです。そしてその効果はなかなかのものであったことが以降の動画でも証明されています。

 


Inondations 2018, sanctuaire de Lourdes : la journée du mercredi 13 juin jusqu'au pic de 12h55

 

前2回の大氾濫のときに比べれば今回はまだそれほどひどい水害ではなかったようではありますが、いままではひとたび増水すると長期に渡って閉鎖しなければならなかった洞窟とその前の広場が、洪水発生からわずか一日で巡礼者の入場を再開できたのは、スタッフやボランティアの尽力とともにこうしたピンポイントの防水策によるところも大きかったのではないでしょうか。

 


Inondations 2018, sanctuaire de Lourdes : la journée du 14 juin et la réouverture de la Grotte

 

もちろん、このルルドの洞窟周辺に比べれば西日本豪雨で被災された各所の地形はずっと複雑なところも多く、これをそのまま最善の策として当てはめることはできませんが、それぞれの地域ごとで「水に弱い」エリアをしっかり見極めて、それぞれに合った対策を打つことの大切さを教えてくれる例として、学ぶところは大きいのではないかと思います。